年齢による物忘れと認知症の違いとは?
「最近、名前が思い出せないことが増えた」「買い物に行ったのに、何を買う予定だったか忘れてしまった」──。年齢を重ねると、このような物忘れを経験する方は少なくありません。そのたびに「もしかして認知症では?」と不安に感じる方もいらっしゃるでしょう。
しかし、実際には加齢に伴う自然な物忘れと、病気としての認知症には大きな違いがあります。今日はその違いをわかりやすくご説明します。
加齢に伴う「物忘れ」とは?
年をとると、脳の神経細胞は少しずつ減少し、情報を処理するスピードや記憶力が低下します。これは誰にでも起こる自然な変化です。
特徴
- 体験の一部を忘れる
例えば、昨日の夕飯が「肉じゃがだった」ことは覚えているけれど、「ジャガイモを何個使ったか」までは思い出せない、というようなケースです。 - ヒントがあれば思い出せる
「昨日は和食だったよ」と言われれば、「ああ、肉じゃがだった」と思い出せることが多いです。 - 日常生活に大きな支障はない
買い物リストを忘れても、他の品物を見て思い出したり、家に戻って確認したりと工夫ができます。
つまり、年齢による物忘れは「誰にでも起こる範囲内の記憶の抜け落ち」であり、少し工夫すれば生活に支障をきたすことはあまりありません。
認知症とは?
一方、認知症は「脳の病気」が原因で起こります。代表的なものにはアルツハイマー型認知症や脳血管性認知症があります。脳の細胞が病的に障害を受け、記憶や判断力、言葉の理解、日常生活の遂行能力にまで影響を及ぼすのが特徴です。
特徴
- 体験そのものを忘れる
食事をしたこと自体を忘れてしまい、「ご飯をまだ食べていない」と何度も言うことがあります。 - ヒントがあっても思い出せない
「昨日は和食だったよ」と伝えても、食べた記憶自体が残っていないため思い出せません。 - 日常生活に支障が出る
財布や鍵をどこに置いたか忘れるだけでなく、使い方そのものがわからなくなることもあります。 - 時間や場所の感覚が薄れる
今日が何月何日か、自分がどこにいるのかが分からなくなることがあります。
認知症は単なる物忘れとは違い、生活そのものに影響を与える進行性の病気です。
「物忘れ」と「認知症」を見分けるポイント
- 忘れ方の違い
- 物忘れ:体験の一部を忘れる
- 認知症:体験そのものを忘れる
- 思い出せるかどうか
- 物忘れ:ヒントがあれば思い出せる
- 認知症:ヒントがあっても思い出せない
- 生活への影響
- 物忘れ:大きな支障はない
- 認知症:日常生活に困難が生じる
このように見比べてみると、違いがはっきりしてきます。
こんなときは注意が必要
次のような行動が見られる場合は、年齢による物忘れではなく認知症の可能性があります。
- 同じことを何度も繰り返し尋ねる
- 慣れた道で迷ってしまう
- 言葉が出てこず、会話が成り立ちにくい
- 料理や買い物など、これまでできていた家事が難しくなる
- ものを盗られたと疑うようになる
これらが頻繁に見られる場合は、早めに医療機関を受診することをおすすめします。
早期発見と対応の大切さ
認知症は進行性の病気ですが、早期に発見することで進行を遅らせる治療や生活の工夫が可能です。
また、最近では軽度認知障害(MCI)といって、認知症の前段階とされる状態も注目されています。この段階で生活習慣の改善を行うことで、認知症への進行を防ぐことが期待されています。
予防・改善のためにできること
- バランスの良い食生活(野菜・魚・発酵食品など)
- 適度な運動(散歩、体操など)
- 十分な睡眠
- 趣味や社会活動を通じた交流
- 定期的な健康診断
これらの生活習慣は、脳だけでなく体全体の健康にも良い影響を与えます。
ご家族にできるサポート
認知症の方は、自分が困っていることをうまく言葉にできない場合があります。そのため、周囲の理解とサポートがとても大切です。
- 否定せず、安心できる言葉をかける
- ゆっくり、わかりやすく説明する
- 本人のペースを尊重する
- 安全に過ごせる環境を整える
「できないこと」に目を向けるより、「まだできること」を一緒に見つけて支える姿勢が大切です。
まとめ
- 年齢に伴う物忘れは、体験の一部を忘れる程度で、生活に大きな支障はありません。
- 認知症は、体験そのものを忘れ、日常生活に影響を及ぼす病気です。
- ヒントがあれば思い出せるのが物忘れ、ヒントがあっても思い出せないのが認知症の特徴です。
- 不安を感じたら、早めに医療機関を受診することが大切です。
物忘れと認知症を正しく理解することで、不安を減らし、安心して日々を過ごすことができます。もし気になる症状がある場合は、ぜひ当院へご相談ください。

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